最高裁判所大法廷 昭和40年(オ)573号 判決 1968年12月04日
上告人
片山喜一郎
代理人
山内甲子男
亡成田政春遺言執行者
被上告人
岡田介一
被上告人補助参加人
加藤鎌三郎
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人山内甲子男の上告理由第一点について。
抹消登記の回復登記について登記上利害の関係を有する第三者があるときは、抹消登記の回復請求権者は右第三者に対して承諾を請求することができるのであつて、抹消された登記が仮登記であるという一事によつて、右承諾を請求する訴が不適法となる理由はない。したがつて、論旨は採用できない。
同第二点について。
原審の認定した事実によれば、上告人は、本件仮登記が抹消された後、訴外成田一男から本件土地の所有権を取得した者として登記簿上に表示されているのであるから、上告人は右仮登記の抹消登記の回復登記について登記上利害の関係を有する第三者に該当するとした原審の判断は正当である。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
同第三点について。
本件遺言書第六項前段の「訴外平田喜代子(きよ)に若干の生活資金を与えられたいその額は遺言執行者と一男と協議のうえ決定すること」との部分は、金銭その他の代替物についての種類遺贈と解すべく、遺言執行者は他の相続財産を換価処分してでもこれを受遺者に引き渡さなければならないから、その関係において相続財産の全部が遺言執行者の管理に属する旨の原審の判断は正当であり、原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
同第四点について。
上告人は本件遺言、ことにその第六項前段は公序良俗に反し無効であると主張するが、原審が確定した事実関係の下では右遺言が公序良俗に反するものとは認められない。論旨は採用できない。
同第五点について。
成田一男がした本件仮登記の抹消登記の効力に関し、原審が、たとえ同人が仮登記権利者たる亡成田政春の単独相続人たる地位にあつても、遺言執行者がある場合であるから、成田一男が相続財産である本件土地に対する処分権を有しない(民法一〇一三条参照)のに、判示のごとき方法で成田政春の名を籍りてした右抹消登記は回復されるべきであると判断したことは正当であり、原判決には所論の違法はない。引用の判例は本件と事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用できない。
同第六点について。
登記は物権変動の対抗力発生の要件であつて、この対抗力は法律上消滅事由の発生しないかぎり消滅するものではないと解すべきである。したがつて、適法にされた本登記が権利者不知の間に不法に抹消された場合にも、その物権についての対抗力が失われるものではないから、いつたん適法にされた本登記の権利者は、その物権に基づき、不法に抹消された本登記の回復登記が許されるとともに、登記上利害の関係ある第三者に対して右本登記の回復登記手続につき承諾を与えるべき旨を請求することができるものといわなければならない(最高裁判所昭和三三年(オ)第二号、同三六年六月一六日第二小法廷判決、民集一五巻六号一五九二頁参照)。ところで、仮登記は、物権保全の仮登記たると、請求権保全の仮登記たるとを問わず、それが表示する権利に実体法上の対抗力を賦与するものでないが、その仮登記に基づいて後に本登記がされると、「本登記ノ順位ハ仮登記ノ順位ニ依ル」(不動産登記法七条二項)こととなるのであつて、この意味において、仮登記は、本登記の順位保全の効力を有するとともに、この順位保全を公示して一般に警告することを目的とするものであるから、右の趣旨に照らせば、本登記の不法抹消について回復登記を許すのに準じて、仮登記の不法抹消についても、その回復登記を許すのが相当であり、したがつて、仮登記が不法に抹消された場合には、仮登記権利者は、登記上利害の関係ある第三者に対して回復登記手続につき承諾を与えるべき旨を請求することができるものというべく、この場合、第三者の善意悪意、回復登記により受ける損害の有無、程度は、右判断を左右するものではない、と解するのが相当である。右判断と異なる当裁判所の判例(最高裁判所昭和二八年(オ)第二五四号、昭和三〇年六月二八日第三小法廷判決、民集九巻七号九五四頁)は、右の限度でこれを変更すべきものと認める。所論は、以上と異なる見解に立つものであるから、論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 入江俊郎 草鹿浅之介 長部謹吾 城戸芳彦 石田和外 田中二郎 松田二郎 岩田誠 下村三郎 色川幸太郎 大隅健一郎 松本正雄 飯村義美)(裁判官奥野健一は、退官のため署名押印できない))